2011 01 26

沢田マンション

「セルフビルド」。
何となく耳にしたことのある言葉かもしれない。
意味はそのまんま「自分で自分の家を建てる」ということ。

前近代的な響きで、あんまりピンとこない。
日曜大工やログハウスのようなものが連想されたりする。

では、この6階建てマンションが、その「セルフビルド」によって
築き上げられたとしたら、みなさんは何を思うだろうか。

沢田・外観

オーナーの沢田夫妻が、少しずつ少しずつ
数十年かけて、完成させていったマンション。

すでにご主人の嘉農さん(この方が天才!)は亡くなられているが、
奥様の裕江さんや娘さん家族らが今も切り盛りし、
このマンションを愛する住人までもが、さらに手を加えながら、
ギャラリーやレストラン、住居として使い続けられている。

零度を下回る気温にも関わらず、アロエは花盛り。

沢田・アロエ

南国らしく、サボテンも元気に手を広げていた。

沢田・サボテン

このマンションは、生きている。
初めて写真で見た時から、ようやく訪れることのできた今も、
胸躍る感覚は、まったく薄らぐことがなかった。

本当に屋上なのかと、にわかには信じがたい光景。
畑にはさまざまな野菜が実っている。
家族で組み上げたという(!)赤いクレーンも聳え立っていた。

沢田・屋上菜園

当初プールを計画していたが、
魚を飼いたいというお孫さんの要望で作られた池。
ニワトリ小屋からは「コケコッコー」の鳴き声も。

そこには、日本の懐かしい農村風景が広がっていた。
しかし、まわりの景色だけが決定的に違う。
青く大きな空と、眼下に広がる街。

沢田・屋上池

毎日コツコツといっても、この規模の建築物を数人で建てるには、
それぞれのやる気とビジョンが一致する必要がある。
嘉農さんの一途さと統率力こそが、沢田マンションを実現させた。

大きなリフト。
ベンチまで備え付けられている。

沢田・リフト

今も作業が進んでいるのか、木材が山積みに。

沢田・木材

きれいに整頓された工具たち。

沢田・工具

ポストの素朴さを見かけて、少し安心した。
普通の日曜大工だと、この程度だろう。

沢田・ポスト

一般の人が格安で泊まれる部屋もあり、一泊だけ泊まってきた。
やはり現代の住宅のように、快適な設備が整っているわけではない。

たとえば、換気扇が変わった角度についていたり、
電気コンセントが驚く場所にあったり、
トイレやお風呂に穿たれた謎の穴が換気口だったり。

だけど、十分生活できる。
かつては、保証金や保証人を用意できない人たちに
優先的に貸し出していたという。

沢田・柱

間取りもサマザマ、部屋番号もバラバラ。
その一つ一つに理由がある。

沢田・廊下

そんな自由さ、不自由さの中に、あふれる愛情を見た。

沢田・裏

安全や不満を重視しすぎた末に生まれていった数々の法令は、
確かに機能的で快適な住居をもたらした。
でも実は、ちょっと危険でも、ちょっと不便でも、大丈夫なんじゃないか。
それを楽しむ心や能力を備えることの方が、重要なのではないか。

隣人の顔も知らないような、現代の住宅。
広さや間取りこそ違えど、代わりはいくらでもどこにでもある。

しかし、この沢田マンションにはそれがない。
それは、建物の生まれた歴史や住まい方への愛着、
オーナーや住人が込めた思いが形作るものだと、教えられた。

もう少し自由な選択が、
大切な何かを取り戻すきっかけを生むような気がしている。

詳しくは、以下の書籍などを。

沢田マンション物語
     古庄弘枝(著)
     情報センター出版局 2002 Amazon

沢田マンション超一級資料
     加賀谷哲朗(著)
     築地書館 2007 Amazon
posted by クラタ at 14:42 | Comment(0) | TrackBack(0) | 植物の建築

2011 01 24

西島園芸団地

極寒ともいえる、去年からの冷え込み。
年も明け、すでに一ヶ月が過ぎようとしています。
ブログもすっかり音沙汰なく・・・。

みなさま、いかがお過ごしですか?
私は新年早々体調を崩していましたが、
ようやく落ち着きを取り戻し、春を迎える態勢も整ってまいりました。

この寒さの中、「やっぱり南へ!」の思いのもと、
念願だった高知一泊二日の旅へ。
「京都より少しぐらいはあたたかい」という予想は大きく外れ、
記録的な気温-4℃に見舞われつつも、しっかり楽しんできました。

どうですか、この鮮やかなピンク!!
雪の降る真冬とは思えない発色と光景。
写真には写っていませんが、白・オレンジ・黄色と、色もとりどりです。

西島・ブーゲンビリア1

ここは、高知県南国市にある、西島園芸団地というところ。
団地といっても、お家ではありません。
フルーツやお花を栽培する温室群のことを指します。

もう少し近寄ってみると・・・。

西島・ブーゲンビリア2

そうそう、ブーゲンビリアです!

西島・ブーゲンビリア3

見上げる限り、花、花、花。

メキシコやタイを訪れるとき、そこここで見かけるブーゲンビリアの
圧倒的なボリューム感と、葉っぱなのか花なのか判別しにくい
微妙な色合いに、とてつもなく恋い焦がれたものですが、
日本でもこんな大きいのが見れちゃうなんて!

西島・ブーゲンビリア4

それもそのはず、この幹の太さ。
もちろん温室栽培ですが、それにしてもでかい。
樹齢、どのぐらいなんだろうか。
スペインにも、一度見てみたい樹齢500年のものがあります。

他にも、スターフルーツ☆(ゴレンシ)。

西島・スターフルーツ

ゲンペイクサギ。

西島・ゲンペイクサギ

ベニヒモノキ(英名は、フランス語の毛虫!)。

西島・ベニヒモノキ

コウモリラン(ビカクシダ)なんかも、かなり元気に育っていました。

西島・ビカクシダ

でも、ほとんど花のない日本の冬に慣れてしまっている私たちには、
ちょっと不思議な感じもします。
なぜ、真冬に花が咲きほこっているのか?

これにはもちろん、温室が作り出すあたたかさが必要不可欠で、
そのおかげで南の植物たちも元気に過ごしています。
しかしもう一つ、ブーゲンビリアやゲンペイクサギには、
日本の冬が好都合な、ある特徴があります。

それは、「短日性(たんじつせい)」という性質。
短日性とは、光の当たっている時間が一定時間より短くならないと、
花を咲かせないタイプということです。
つまり、昼の時間が短いと、お花がたくさん咲く仕組みなのです。

このため、一定の温度を保つとブーゲンビリアは
年中花を楽しめますが、夏には意外と多くつきません。

西島・ブーゲンビリア5

それはさておき、毎年行われているイベント・フード盛りだくさんの
西島園芸団地の「ブーゲンビリア祭」、いつか行ってみたいな〜。
気持ちいいだろうな〜。
posted by クラタ at 21:57 | Comment(0) | TrackBack(0) | 植物の建築

2010 05 25

石上純也

今、もっとも注目している建築家。

以前から、彼の話をしっかりと聞いてみたくて、
仕事場でセミナーを企画している旦那さんに持ちかけていました。
幸せなことに念願が叶い、先週の金曜日、そのセミナーに
講師として来ていただけたので、弟を誘ってお邪魔してきました。

venice

「建築の可能性」

ただ真っ白な画面の中心に映し出された、彼らしい小さい文字。
講演会にはほぼ、「自作について」というタイトルで語るスタイルを
取っているようで、今回も例外ではなく、用意された資料を
スライドで見ながら、9つのキーワードを元に話が進められました。

1.プロポーション
2.建築の強度
3.ゆっくりとしたスピード
4.巨大なボリューム
5.大きい環境
6.小ささ
7.部分と全体
8.独立していること
9.建築を考える環境

ここで、具体的な内容や主観的に感じ取ったことを書くのは、
個人的なものになりすぎすので、やめておきます。
彼自身、どこか把握し切れないものを「抽象」という言葉で表現し、
そこから生み出てくる可能性を、特に重視しています。

なので、キーワードからさまざまに想像を膨らませ、
またいつか機会を作って、著書を読んだり、建築を訪れたり、
講演に参加したり、それぞれに感じ取ってみて下さい。

INAX 石上純也
     石上純也(著)・メディア・デザイン研究所(編)
     INAX出版 2008 Amazon

「現代建築家コンセプト・シリーズ」中の一冊です。
こちらでも、デッサンや図面などのいろいろな図版が見られます。

彼の生み出す作品には、植物の登場する場面が多く、
全体を通して優しさにあふれています。
デッサンもすべて、女性が描いたように線が細く、
パステル調で、ファンタジックで、楽しげです。

ここにも、「抽象性」が深く関係している気がします。

建築が、内部と外部をはっきりと分断するものとしてだけ
存在するのではなく、境界線をやわらかくしたり、あいまいにしたり、
刻々と移り変わらせたり、新たな可能性やバランスを探る上で、
彼の建築は、ある意味で女性らしくもあります。

たとえば雲のようにフワフワと漂う「四角いふうせん」や、
ポツンと建てられた小さな家とその塀の間にある庭のような部屋や、
全長10m×厚さ3mmという不思議なテーブルなど、
見た目は大人も子供も喜ぶような、ワクワクするものばかり。

建築物として緻密に計算された構造や、
十分生活できる機能を備えていることを、感じさせません。
あとは、使い手の個性やセンス、努力に委ねられます。

想像力を掻きたてる装置として、ときには見え方を変えさせたり、
ときには気候や地形を変えてみたり、建築物にとどまらない
彼の実験と挑戦は、まだまだ続きます。

table

お話も面白く、あっという間の二時間でしたが、
今回特に、問題意識として頭に残ったのは、街並みのお話です。
ヨーロッパなどでは、いまだに古い街並みが遺っている場所も多く、
それをお手本に日本も保存・保護活動がなされていたりします。

建築家の方ならなおさら、優れた建築物を破壊することなく
後世に引き継ぎたい、と考えるのも自然です。
それは財産として、思い出として、記録として。

けれど彼は、その行為を「化石化」と呼んでいました。
人間や社会が変わっていくのだから、建築や街並みも同じように
変わっていった方が、むしろ自然でリアリティを持っていると。

建築界に属する人が、しかも実績があるとはいえ、
まだ若手の人が、はっきりこう断言していたのは衝撃でした。

安易な建築のために、優れた建築を壊すのはつらいことです。
ただ、文化や街を更新していくのも、とても重要なこと。
街並みを保存するために、看板の色や建物の高さを制限する
京都に住んでいる私としても、少し立ち止まって考えたい問題です。
posted by クラタ at 19:58 | Comment(0) | TrackBack(0) | 植物の建築

2010 03 26

愛知県立芸術大学

日本を代表する建築家、吉村順三氏設計の
愛知県立芸術大学キャンパス増改築に対して、
県知事に実施反対を嘆願するための署名運動が拡がっています。

アーティストが活躍する空間や時間を作り出す、
アートコーディネーターの森桜さんがご紹介下さいました。
(なんと素敵なお名前でしょう!)

普段は本当に温厚なやわらかい印象の方ですが、
ご主人が近代建築を研究されていることもあり、
今回ばかりはご夫婦揃って黙ってはいられないご様子です。

愛芸1
キャンパス鳥瞰図

こちらのキャンパスは、「愛・地球博」が行われた公園に隣接する、
愛知県の長久手町というところにあります。
私も一時期、この辺りに住んでいたことがあり、
とても他人事とは思えませんでした。

地球博開催時に周辺環境との調和が取り沙汰された通り、
まわりは深い緑に囲まれ、中庭には芝生が広がり、
建築と木々とのコントラストがとても魅力的な学校で、
現代アーティスト・奈良美智さんの母校でもあります。

愛芸3
講義室棟(昼の様子)

愛芸4
講義室棟(夜の様子)

着工(建設開始)が、1965年のこと。
その後、何期かにわたって工事が進められ、
敷地内にはたくさんの木々も植えられてきました。

自然に見える木々が、実は植樹によるものだということです。
10〜45歳と樹齢は様々ですが、すでに大木になってもいます。
この辺りはもともと砂防林で、砂と粘土の交互層だったため、
第一期の植樹は、ほとんど育たず枯れてしまったそうです。

それを改善するために、植え穴を深く広く取って、土を取り替え、
水はけがよくなるよう排水設備を整えたりという努力があって、
現在の姿になっていることは、覚えておきたい事実です。

愛芸2
音楽学部棟

この他にも、魅力的な建築とそこから見える風景が
数多く存在しますが(白黒画像カラー画像)、
前出の講義室棟と体育館以外は取り壊されるというのです。
→計画案はこちら

理由は、生徒・学科・設備の増加に際する増改築の必要、
それから、耐震構造の強化ということだそうです。
本当に方法はないのでしょうか?

今、あちこちで重要な建築物が容易に取り壊され、
取り返しのつかない現実が、私たちの身に起こっています。

人のこころに触れる文化を守る社会であってほしい、
文化を下支えするための経済・法律であってほしい、
と切に願います。

この署名運動は、今月いっぱいで終了するそうで、
週明けには郵送しなくてはなりません。

もし、これをお読みになられて賛同していただける方は、
明日3/28(日)までに、am@atelier-michaux.comへ
お名前とご住所をご連絡下さい。
(多少の遅れなら追加できます!)

軽井沢の山荘1

ちなみに、吉村順三氏の代表的な作品は、「軽井沢の山荘」。
自身が所有していた山の中の別荘です。

軽井沢の山荘2

今も、多くの建築家がこの場所を訪れています。



追記

ご協力下さったみなさま、本当にありがとうございました!

その後もじわじわとご連絡をいただいたりしていたので、
あらためて事務局へ問い合わせてみました。

状況としては、今年の2月に長女の吉村隆子さんが
愛知県副知事に2000名分の署名を手渡されたところだそうです。
現在は、継続して追加分を集めている段階らしく、
一旦3月末で〆切という話もありつつ、どうやら延長になるようです。

なので、引き続き集めていこうと思っていますが、
やはり自筆が必要ということなので、直接お会いした時か、
お書きいただいたものをメールかFAXでという形になります。

もちろん、吉村順三記念ギャラリーへ直接の郵送でも構いません。
どうぞよろしくお願いいたします。
posted by クラタ at 23:57 | Comment(2) | TrackBack(0) | 植物の建築